健康診断で運動を勧められたら?理学療法士が始める手順を解説

健康診断の結果で「運動不足」「生活習慣の改善が必要」「保健指導の対象」などと指摘されると、「何か始めなければ」と焦る方も多いのではないでしょうか。

しかし、いきなり長距離を走ったり、負荷の高いトレーニングを始めたりする必要はありません。

はじめに

運動習慣が少ない方は、まず日常生活のなかで今より少しでも多く身体を動かすことから始めるのが大切です。

この記事では、健康診断をきっかけに運動を始めたい方に向けて、歩行を増やす工夫と自宅でできる筋力トレーニング、安全に続けるための注意点を、理学療法の視点も踏まえて解説します。

厚生労働省が示す運動量の目安

厚生労働省の成人向け推奨では、日常生活での動きも含めた「身体活動」と、計画的に行う「運動」を区別しています。

掃除・買い物・通勤時の歩行なども、身体活動に含まれます。

成人向けの目安と日常での考え方は以下の通りです。

  • 身体活動: 歩行または同等以上の強度の活動を1日60分以上(およそ1日8,000歩以上に相当)が目安となります。通勤、買い物、家事、階段利用などを含みます。
  • 運動: 息が弾み、汗をかく程度の運動を週60分以上が目安です。速歩、軽いジョギング、自転車、体操などを、無理のない範囲で取り入れます。
  • 筋力トレーニング: 週2〜3日が目安です。自重スクワットや椅子からの立ち座りなどでも構いません。
  • 座りっぱなし: 長くなりすぎないよう注意が必要です。仕事中も、ときどき立つ・歩く・身体を動かすことを意識します。

これらは「必ず一度に達成しなければならないノルマ」ではありません。

厚生労働省は、健康状態や体力には個人差があるため、強度や量を調整し、可能なものから始めることを勧めています。

なお、高齢の方や身体機能が低下している方では、目標量や運動内容を個別に考える必要があります。

高齢者には、筋力・バランス・柔軟性を組み合わせた多要素運動も推奨されています。

最初の一歩は「+10分」の歩行から

「1日8,000歩」と聞くと高いハードルに感じるかもしれません。

その場合は、今の生活に10分程度の身体活動を足すことを目安にしてみましょう。

e-ヘルスネットでは、身体活動を1日10分増やすことで、疾病の発症リスクや死亡リスクが約3%低下すると推測されています。

歩行時間と歩数の関係には歩幅や速度による個人差がありますが、10分の歩行はおおよそ1,000歩の目安になります。

大切なのは歩数の数字そのものよりも、昨日より少し活動量を増やすことです。

日常生活で歩行時間を増やす工夫

通勤や買い物など、もともと行っている行動に少しだけ工夫を加えると、運動のための特別な時間を確保しなくても身体活動を増やせます。

場面に応じた取り入れやすい工夫は以下の通りです。

  • 通勤・外出: 一駅手前で降りる、遠回りして歩く、目的地の少し手前で降車する。
  • 建物内の移動: 体調に問題がなければ、エレベーターやエスカレーターの一部を階段に置き換える。
  • 買い物: あえて少し遠い店を選ぶ、駐車場では入口から離れた場所に停める。
  • 自宅周辺: 食後や夕方に、まずは10分だけ散歩する時間を決める。
  • デスクワーク: 座りっぱなしを避け、定期的に立ち上がって数分歩く。

歩行を始めるときは、会話ができる程度のペースを目安にしてください。

翌日に強い疲れが残る、膝や腰の痛みが強くなる場合は、時間や速度を下げて調整しましょう。

自宅で始める筋力トレーニング:まずは下半身を意識

歩行に加えて、週2〜3日の筋力トレーニングを組み合わせることが勧められています。筋力トレーニングにはマシンやダンベルだけでなく、自分の体重を負荷にする自重運動も含まれます。スクワットはその代表例です。

筋力トレーニングは、筋力や身体機能の維持・向上に役立つだけでなく、疾患発症や死亡リスクの低減につながる可能性が報告されています。

また、有酸素性の身体活動と組み合わせることで、さらなる健康増進効果が期待されます。

初心者向け:椅子を使った立ち座り運動

膝や腰に不安がある方、スクワットに慣れていない方は、安定した椅子を使った立ち座りから始めるとよいでしょう。

椅子は壁際に置き、動かないことを確認してください。

  1. 椅子の前方に浅く腰掛け、足を肩幅程度に開きます。
  2. 足裏全体で床を押す意識で、ゆっくり立ち上がります。
  3. お尻を後ろへ引き、椅子にゆっくり腰を下ろします。
  4. 痛みがなく、姿勢を保てる回数だけ繰り返します。

回数や深さを一律に決める必要はありません。

まずはフォームを確認しながら、少ない回数から始めましょう。

膝や腰に痛みが出る、ふらつく、動作が不安定になる場合は中止してください。

スクワットへ進むときのポイント

椅子からの立ち座りに慣れてきたら、自重スクワットに進むこともできます。

足を肩幅程度に開き、お尻を後ろへ引くようにして、痛みのない範囲までゆっくり膝と股関節を曲げます。膝はつま先と同じ方向へ向け、背中を丸めたり、反動をつけたりしないことが大切です。

太ももを床と平行まで下げる必要はありません。

深さよりも、痛みがなく安定した姿勢で行えることを優先してください。運動で悪化する膝・腰の痛みや関節の病気がある場合は、自己判断で負荷を上げず、医師や理学療法士などへ相談しましょう。

安全に続けるために確認したいこと

運動は健康づくりに役立ちますが、体調や持病によっては注意が必要です。

特に、普段ほとんど運動をしていない方が急に強度の高い運動を始めると、けがや体調不良のリスクが高まります。

低強度・短時間から始め、少しずつ量や強度を上げていきましょう。

状況に応じた対応の目安は以下の通りです。

  • 心臓病・高血圧・糖尿病などで治療中、または医師から運動の制限を言われている場合: 始める前に主治医へ、可能な運動の種類・強度・注意点を確認します。
  • 膝や腰に強い痛みがある、運動で痛みが悪化する場合: 無理に歩行距離や筋トレの回数を増やさず、医療者に相談します。
  • 運動中に胸痛、強い息切れ、動悸、めまい、冷や汗、強い関節・筋肉痛が出た場合: その場で運動を中止し、必要に応じて医療機関へ相談します。
  • ある程度の強度の運動を行う場合: 運動前にウォームアップを行い、終了後は5〜10分程度のクールダウンを取り入れます。

スマートフォンの歩数計やスマートウォッチを使って、歩数や運動時間を記録することも有効です。

数値を他人と比較するためではなく、自分自身の変化を把握するために活用しましょう。

まとめ:今日から始めるなら「10分多く歩く」こと

健康診断で運動を勧められたからといって、いきなり激しいトレーニングを始める必要はありません。

まずは、今の生活に10分程度の歩行を加えることから始めてみましょう。慣れてきたら、週2〜3日の自重トレーニングを組み合わせ、座りっぱなしの時間を減らしていくとよいでしょう。

小さな行動を無理なく続けることが、次回の健康診断に向けた生活習慣の見直しにつながります。体調の変化や痛みを見逃さず、自分に合ったペースで取り組んでください。

姿勢、歩き方、運動フォーム、膝や腰に負担をかけにくい運動の選び方について詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください。

参考文献・公的データ出典

  1. 厚生労働省.身体活動・運動の推進―健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023.URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index.html
  2. 厚生労働省.健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023:成人版(PDF ).URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001195866.pdf
  3. 厚生労働省 e-ヘルスネット.「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」推奨シート:成人版.URL:https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-00-002.html
  4. 厚生労働省.健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023:身体活動・運動を安全に行うためのポイント.URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf
  5. U.S. Department of Health and Human Services, Office of Disease Prevention and Health Promotion.Physical Activity Guidelines for Americans: Current Guidelines.URL:https://odphp.health.gov/our-work/nutrition-physical-activity/physical-activity-guidelines/current-guidelines

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